最初の一足は1911年になんとか完成した。メイン州の漁師でハンターのLeon Leonwood Beanがアウトドアに出かけるたびに足元がぐちゃぐちゃになることに嫌気がさしたことがきっかけだった。アイディアはシンプルだけど革新的だった。軽いレザーを使ったくるぶしより上のサポート部分と、でこぼこしたゴム製のソールを合わせることで、他にない超機能的なフットウェアにするというものだ。その後、広く知れることになる、広く知られることになるThe Bean BootsもしくはMaine Hunting Shoeは重くも硬くもなく、レインブーツと同じような機能を果たした。靴作りの全すべては狩猟家ハンターのニーズを十分に考えて実用的なアプローチのもとに行われた。コンセプトが革新的なだけではなく、その制作は新しい技術の発展につながった。例えば、二つの部分を接合するための三つのステッチ、アキレス腱に当たって擦り減ることを防ぐためにデザインされた特徴的な割れたバックステー、ゴム底の周りの五つ5本の線の線はつま先から水滴を導くため、そしてゴム底の縁はブーツの上に瓦礫破片が入ってこないように考え抜かれている。Beanの最初のラインは品質管理の面で苦心したが、すぐに完璧に改良され、メイン州に瞬く間に広まっていった。当時、用途の広さと機能性は共存することはなかったが、気軽な登山者から極限に挑む冒険家にも重宝されることとなった。1928年にはアーネスト・ヘミングウェイでさえ買ったばかりの「ラバー底のブーツ」を吹聴してまわったほどだ。
比類ないダックブーツの歴史
創作されてから100年以上も経っているのに、ダックブーツは生き生きとしている。伝説的なデザインは、終わることのない寿命のなかで革新を続けている。しかしながら、時間が経つにつれてブーツの解釈が変わり、それが抱える膨大な歴史と重要性、こだわりのなかで行先を見失ってしまいそうだ。
1950年代には伝説的なブーツはアメリカで強烈な存在感を表し、模倣品が近隣のデザイナーから現れることになった。40年後のこの時点で完璧主義者の最高傑作をさらに改良することができるのかと疑問に思い始める人もいた。最初の靴の微調整はほんの些細な部分で、つま先部分に光沢をもたせること、ローデングリーンのゴムでコーティングをすること、もしくはシャーリングライニングを加えるだけでもオリジナルのデザインとの変化をつけるのに十分だった。多くの生産者は外注して、アメリカ製の競合品よりも価格を下げるために品質を犠牲にした。何年もの間、ラフな格好の有名人たちが身につけていたにもかかわらず、ダックブーツはずっとファッションの影に隠れていた。長い間、実用的な理由で選ばれ、一生のうちブーツなんてたった一足しか欲しくない人、もしくは子供にその一足を渡すような人が買うフットウェアだった。それはアイビーリーグの大学のホールで履き潰され、同じ場所に属することの証として代々、厳かに受け渡された。そうして資産とともに標準装備され、ハンプトンの水鳥を狩りにいくような人の必需品だった。ところが、80年代の実用性重視のアイビーリーグ・ファッションへの関心の高まりが質素なフットウェアへの関心にすぐに結びつくことになった。このことは当時の国中に広まっていた保守的な政治の波とともに仕立て上げられ完璧に組み合わせられた。もし核戦争のことを考えながら実存の恐怖の中に生きていたのならば、少なくとも自分の足が濡れることがないことはわかっていただろう。
長い間、エリートの足元を飾っていたものが、ついにステイタスシンボルとしてより広いファッションの世界に招かれたことは当然のことだろう。1979年、ニューヨークタイムスは正式にこのブーツをファッショナブルなものとして迎え入れた。「実用的で一流」のダックブーツを讃える俳優トニー・アイルワードがそれを履いてぬかるんだニューヨークの路上で足を踏み鳴らしている様子を撮影したのだ。実用性は否定できないが、お父さんの古いワークブーツを連想する若いオーディエンスにはデザインがつまらなくなってきた。完璧な実用性を保ちながら、美的価値をより高めようとするにはどうしたらいいか、ということがほぼすべてのデザイナーの課題になった。2020年におけるダックブーツの定義は歪められている。多くがあだ名を捨て、そのかわり既存のモデルに「耐気候性」を付加したものとして分類した。もはやブーツに限らず、スニーカーやヒールも含めたすべての靴に適応できるコンセプトになった。なかには落とし穴から逃れて、クラシックな部分を讃えながらも実用性とスタイルを改良し、コンセプトに新しい生活を当てはめることができた人もいる。
プレップとアウトドアスタイルの時代を超えた融合とも言えるダックブーツは、ものを長く使い続けることに優先順位がシフトしてきているなか、重要な年を迎えようとしている。人々は自分たちの買い物の習慣をもう一度考え直していて、ブーツのクラシックなデザイン体系がクオリティ、寿命の長さ、使いやすさ、エシカルな意味での新しいパラダイムに完璧に沿うようになっている。アメリカデザインのブーツは、パンプキン・スパイス・ラテとともに毎年戻ってくるような家庭の必需品になっていたが、シンプルなフットウェアを好むグローバルな関心の流れがダックブーツをその子供へとつなぎ、昔ながらの技術を使ってクオリティを構築し、時代を超えて多くの新しい足を温めていくだろう。
Text: Samuel Trotman
Translated by: Yoshiko Nagai
Collage: Jahved Crockett