写真家、石川直樹の誰にも乗り越えられないことを捉える類いまれな粘り強さ
石川直樹にとって、ずっしりと重い中判カメラを背負って世界最高峰の数々を目指すことはたいしたことではないようだ。鉄の塊をたずさえ、見たこともないような風景や人々、そして瞬間をとらえることと、その道筋そのものが彼の目的だ。それは文化人類学的、民族学的な視点から見た壮大なビジュアルの物語をあわせ持っている。石川が撮るイメージは意図的ではないのに思わず息を飲んでしまうのは、彼の関心が世界とそこに住む人々の心そのものを捉えているからだ。しかしながら、足を踏み入れることさえ困難な極限の環境で、石川が瞬間をフレームのなかにおさめるために何を待っているのか、私たちは想像しないではいられない。たとえば過酷な高度8,848フィート、ヒマラヤ山脈のエヴェレストの山頂のような場所でもそうだろう。
「七大陸最高峰」を登り、北極と南極に到達し、日本でも最も辺鄙で独特の文化をもつ地域を旅した写真家、石川直樹のイメージは対立する価値のあいだを行き来している。挑戦的でありながら解放的、抑制的でありながら包括的。エヴェレスト登頂二回目が物語るように、彼の絶えることない世界への好奇心と旅への愛は私たちがただ想像することしかできないような地点に導く。エヴェレストの頂上は海水面から測って地球の表面がもっとも遠くにあるところだ。石川の写真を通じて、私たちはカメラのレンズ越しに誰にも乗り越えられないことのほんの一部を体験することができる。
Text: Joanna Kawecki.
Translated by: Yoshiko Nagai
All images copyright: Naoki Ishikawa, “EVEREST” (CCC Media House, 2019)