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未来はどんなかたちをしているか?:
YOON × 妹島和世 対談

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AMBUSH®デザイナー・YOONと建築家・妹島和世の対談。世界を舞台に活躍するふたりが考える未来の街、建築、デザインとは?

春の日差しに照らされるAMBUSH®オフィスは、常に進化しつづける躍動の街、渋谷の中心に拠点を置く。外の雑踏とは対照的な凛とした白いオフィスに、AMBUSH®デザイナー・YOONと建築家・妹島和世がひさびさの再会を嬉しそうに腰をおろす。

彼女らの深い、深い、深層へとつづく会話を聞いていると、どんなに人と人との繋がりがパラレルワールドへとシフトするとしても、やはり対面でじっくりと話し合うことは必要なことだと感じる。そして今まで30年間にわたり、金沢21世紀美術館や犬島プロジェクトをはじめとする「公園のような場所」という妹島のコンセプトは、いかなる時代においても常に人々と一緒に新たな可能性を見いだしてきた。

どこかぼんやりと新しい時代に突入するいま、わたしたちは長い歴史の先に立ち、これからどのような痕跡を残していけるだろうか?見えないからこそ想像が膨らむ未来に向けて、YOONと妹島は人間の感性を刺激するデザインを考える。

YOON:いままでと比べて渋谷を拠点に、東京で長く時間を過ごすようになってから、東京の景色がいつのまにか均一化された新しいものに変わったように感じるんですよね。果たしてタイムレスなオリジナリティってどこにあるんだろうって考えるきっかけにもなったのですが、一方でもしかすると若いジェネレーションの感性にも今後影響してくるんじゃないかなって時々怖くなったりするんです。街づくりにおいて必要なことってなんだと思いますか?

妹島:みんなが自分の街だと思えて、街づくりに参加できること、それから時間、つまり文化の積み重ねを大切にすることが重要だと思います。例えば、2012年に手がけたルーヴル美術館の別館「ルーヴル・ランス」内にある「時のギャラリー」では、ルーヴル美術館のコレクションを約6千年間 ― 紀元前4千年前から19世紀半ばまでーという時系列で展示していて。歴史は過去のものである、というよりも、私たちは歴史に繋がって生きているという彼らのコンセプトは、街づくりとしても大切な考えだなと納得したことがある。YOONさんも、デザインにおける時間のスパンは考えてますか?

YOON:考えてます。自分のデザインが、2年後でもそれ以上でも価値を感じてもらえるかというところに一番のチャレンジを感じてますね。そしてわたしの手元から離れたアイテムが、さまざまな人々の価値観や文化の中で自由自在に時を重ねていくことも楽しみです。昔と違って、いまは特にヒエラルキーを超えてお客さんの声やパワーが時代を変えることもあるし。

建築でも、スペースを使う人たちのパワーが影響することってありますか?

妹島:ファッションほど一方向に急速に向かうスピード感とは違うかもしれないけど、スペースを使う人たちが一緒になって、新しいクリエイティブなことを生み出す力はあると思う。2007年に金沢21世紀美術館で日比野克彦さんと行った「明後日朝顔プロジェクト21」では、まさに参加した人々によって美術館の新しい顔が見つけられたんですよね。みんなで美術館のガラス一面を朝顔で覆い尽くすところまでイメージはできていたんだけど、実際に中に入るといままで透明でも感じていたガラスのバリアが一気に消えてしまって。まるで縁側にいるような空間が生まれたんです。建築の世界で使う「機能」という言葉の意味合いが、単純に使い勝手のいいものではなくて、そういうふうにもっとみんなが自発的に使いたいと思うような「創造」としてどんどん膨らんでいくと面白いと思います。

YOON:ファッションも本来、服を介して新しいクリエイティブなコミュニティやカルチャーを生み出す力があります。でも、ここ数年バーチャル世界の広がりによって、ファッションはひとりのものという感覚が強まっているように思えて。みんな一つのコミュニティに所属していた時代から、郊外やバーチャル世界などバラバラに分散する姿は、人類の歴史を振り返っても何度も起きていることだから自然な流れでもあると言えるんだけど…これから人と人との関係をつくるスペースってどんなものになるんだろうって想像してます。

妹島:わたしは、活動当初から抱いているコンセプトである「公園のような場所」の可能性を信じてます。それは、さまざまな年代の人々がそれぞれの目的で時間を過ごしているのだけど、決して孤立しているわけではなく、どこかみんなとここにいるということが感じられるような場所。そういうスペースは、どんな時代においても必要だと思ってます。

YOON:そういうスペースは必要とされ続けると思います。建築の世界で、最近若いジェネレーションが生み出す建築はどんなものですか?

妹島: 日本だけで言うと、リノベーションという考え方が以前より大切に考えられるようになってきていると思う。昔はとにかく「新しいもの」をつくることが建築の目的だったんだけど、そこにしかない価値を見出そうとしてる。建物の歴史や時間のもつテクスチャーとか。一方で最初に話した通り、機能性とコストばかりを考えすぎるあまりに、新しく建てられたものでは手の跡のようなものが残るのは欠陥と考えられたりする傾向があったりで。それはとても恐ろしいことで、いつの間にかなにが気持ちいい/気持ち悪いのか考える人間の感覚さえも惑わす危険性があるんじゃないかなって思う。

YOON :情報過多の時代であらゆることがアルゴリズムとともに動いているけど、人間が唯一持ってることって「考える力」ですよね。3年前に渋谷慶一郎さんのプロジェクト「Scary Beauty」で指揮するアンドロイド「オルタ2」を観てから…。

妹島:わたしもそれ観にいった!面白かった。

YOON:すごく感動しました!あれ以来、AIについてよく調べるようになりました。建築では、実際にAIは活用されてますか?

妹島:安全性や機能の面では取り入れられているけど、まだ一緒にクリエイティブなことをするところまできてないかな。個人的には、建築はもともと人の身を守るために壁や外との境界線をつくっていたけど、AIを使うことでやわらかな境界のもと暮らせる未来をつくれたらおもしろいなと思っています。未来に向けては、子供のための場所づくりにも興味がある。YOONさんは、チャンスがあるとしたらどんな服をつくりたい?

YOON:うーん、少しファンタジーな話になるのですが…映画のコスチュームはつくってみたいです。ブランドでは、いつもユーザビリティや売ることも含めてデザインを考えていて、それも楽しいんだけど、チャンスがあれば全く違う考え方のデザインにも挑戦したいですね。

Text: Yoshiko Kurata
Images: Momo Angela Ohta

"(Top to bottom): (1) Louvre-Lens, Photo: Hisao Suzuki © SANAA, IMREY CULBERT, Catherine Mosbach — (2) Louvre-Lens © SANAA,
IMREY CULBERT — (3) 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa — (4) 21st Century Museum of Contemporary Art,
Kanazawa, Art: The Day After Tomorrow Morning Glory Project 21, by HIBINO Katsuhiko © HIBINO Katsuhiko — (5) Inujima Art
House Project, A-Art House | Art: reflectwo by Haruka Kojin (SCAI THE BATHHOUSE — (6) Inujima Art House Project, S-Art House,
A-Art House | Art: reflectwo, contact lens by Haruka Kojin (SCAI THE BATHHOUSE) — (7) New Museum, Photo: Dean Kaufman"